【読書】秋本治の仕事術 ~『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由~ 秋本治著 

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こち亀を知らない日本人など、いないのではないかと思う。40年間も週刊少年ジャンプで連載していた作品だ。9割以上の男の子は、人生のどこかで週刊少年ジャンプとすれ違う。さらに、アニメや実写ドラマにもなったことを考えると、やはり日本人の99%はこち亀を知っていると思う。
いや、「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録に認定されていることや、アニメ化されていることも考えれば、世界でも相当な知名度なのかもしれない。確かめようは無いけど。

こち亀のすごいところは、ギネスに認定されるほど長いシリーズだということ。しかも、40年間もの年月、しかも週刊連載でありながら一度も休載していないことは、異常なほどすごいのではないかと思う。すごいからこそ、本の題名にもなっている。

数年ぶりに連載再開したと思ったら数週間でまた数年休載している漫画とはエライちがいだ。

そしてネタのマニアックさも群を抜いている。使い捨てカメラがテーマの話を読んだときの衝撃は今も忘れられない。専門誌かと思うほどの詳細な解説があり、1話の中の数ページの裏に膨大な取材があることを感じさせる内容だった。

漫画家はジャーナリズムなのだと、子供心に思ったものだ。

この話を上回る衝撃は、革命刑事の話しくらいなものではかろうか。「交通を革命するために!」から笑いが止まらず、「〆宮 庵水」の名前が瞬間には呼吸が止まりかけたほどだ。仲間内でこれほど話題になった話はなかった。もし、未読であればぜひ読んでほしい、ただし、こちらを視聴済みであることが条件だ。

すいません、ちょっと話がそれました。ただ、週刊少年ジャンプ巻末コメントでは、漫画家さんたちがこぞって少女革命ウテナの話題を書いていた。秋本治さんが本書の中で述べている、

自分が楽しいと思ったら描かずにはいられない

にも通じる話なので、あながち横道というわけではないかもしれない。

このままだと、あまりに長くなってしまいそうなので「秋本治の仕事術 ~『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由~」の内容に入ろう。

 

この本を一言で伝えるとしたら「ふつうのコトをふつうに」になる。

秋本治先生が40年間、いちどの休載もなく、また人気が無くなって打ちきりになることもなく「こち亀」を連載できた秘密が語られているのかもしれない。週刊という過酷なスケジュールを乗りこなす工夫、毎週のネタを生み出す発想力。その秘密を知ることができるのかとワクワクしながら、僕はキンドル版をポチった。

1時間後、期待は見事に打ち破られていた。

特別なことなど何一つなかった。むしろ、驚くほど「普通」だった。ページをめくってもめくっても、書かれていることは普通のことばかり。特別な技や秘密などは、とうとう最後まで出てこなかった。

前半を読んでいて、すこしガックリした気持ちになった。だって、普通なんだもん。社会人になれば誰でも言われるようなことだもん。

読み進めるうちに、すこし印象が変わってきた。書いていることは普通なのだけど、これができている人は成功するよね。危ない危ない。わかっている病にかかるとこだった。

こち亀が「週刊で40年間休載なし」「ギネスブック認定」という偉業を成し遂げたのは「普通」を「普通」にやることだったのだ。そんなことわかっていると軽視しがちな「普通」を「ちゃんと」「続ける」ことこそが、成功の秘密なのだ。

 

普通なのに心に刺さる言葉に溢れている本の中で、三箇所だけピックアップして紹介します。

集中力が切れるのは、ひとつの仕事が終わったとき。それが恐いので僕は終わった次の日から、すぐ次の仕事をはじめるようにしています。  アシスタントには申し訳ないのですが、大きな仕事を終えた後でも「休んでくれるな」といって、次の日も定時に来てもらい、普通に仕事をしてもらうようにしています。   何事もなかったかのように、変化なくずっと続ける。これこそが集中力を持続させるコツ なのかもしれません。

これ、やっちゃってます。

一つの山がおわって、ふうーっと一息。達成感に浸りながら感じる至福のひととき。しかしかれは「うさぎとかめ」のうさぎの行動。

そういえば、斎藤一人さんもどれかの講演で言ってました。自分へのご褒美とかいって温泉行ったりしているから仕事が伸びないんだって。途中でそれをやらなかった人が、いつでも好きなときに温泉に行けるようになるのだと。

一度ストップすると、エンジンをかけ直すのに余計な時間と力がかかる。これは経験でわかってる。いや、知っているだけでわかってないからやってしまう。

この本は、知っているけどわかってない・できてないをこれでもかと確認させてくれる。

 

不思議なもので、終わりの時間をこんなに繰り上げ、マンガを描く時間を減らしても、できる仕事の量は変わりませんでした。「2時までに終わらせればいいんだ」という気持ちを切り替え、 仕事のできる時間を短く設定してしまえば、おのずと仕事のスピードを速めていける ものなのです。

僕はこんなことを思い出した。

悩むのは時間の無駄、3日間でつくったものと3ヶ月かけて作ったものにクオリティの差はない。または、ファーストチェス理論、「5秒で考えた打ち手」と、「30分で考えた打ち手」のうち、86%は同じ打ち手である。

パーキンソンの法則というのもある。例えば1時間で終わる仕事も、3時間の枠が有ると3時間かかってしまう。

僕みたいに、雇われでなく終わりの時間も決まっていないことやっていると、ついダラダラしがちになってしまう。

秋本先生の仕事の時間を取り入れたい。

ひとついえるとしたら、逆説的ではありますが、 最短で成功をつかむためには回り道を厭わないこと だと思います。ただがむしゃらに、選ばないで何でもやってきた人が、比較的早く成功をつかんでいるような気がしてならないのです。

「最短で・・・」「最速で・・・」稼げます、成功させます。こんな成功ノウハウ本や、情報商材があったりする。回り道をしたくない、余計なことはしたくない、できるだけ楽をしたい。そんな思いを利用され、手を出しては泣きを見ることになる。

最近ネットでよくみる光景。本書の趣旨とは違う感想かもしれないとはおもいつつも、秋本先生が書いているような心がけがあれば、引っかかることはないなと思った。

 

普通のことを普通にすることの大事さ。当たり前のことを当たり前にできることの大切さ。それが、とてもあたたかい語り口で書かれている本書。

目からウロコが落ちるとか、感動して飛び上がるとか、そんな派手さはないが、何度も読み返そうと思う良書だと思う。